株式会社神明

神明トップ対談

世界に挑戦 ラグビーと和食

コメ卸、神明のトップ対談第3回は「世界に挑戦」をテーマにした。ラグビー元日本代表でラグビーワールドカップ(W杯)2019アンバサダーの大畑大介氏を9月からのW杯会場である神戸市に招き、神明の藤尾益雄社長と語っていただいた。同社は欧州やアジアへ商品輸出を本格化しており、ラグビーと和食でそれぞれ世界に挑戦してきた2人はすっかり意気投合。スポーツと食の市場開拓に向けてエールを交換した。

実家はパン屋さん。でも、ご飯が好き

藤尾
ラグビーをいつから始めたのですか。
大畑
小学3年生からです。大阪市内の小学校に通っていましたが、周囲が皆、野球少年で阪神タイガースのファンばかり。僕はへそ曲がりなので反発していました(笑い)。でも、友達は欲しくて、僕に興味を持ってもらうように考えました。
皆がやっていないスポーツを探して、ラグビーを選んだのです。地元のチームで練習に参加したら、僕は足が速かったので注目されました。
藤尾
子供の頃、ご飯をしっかり食べていましたか。
大畑
食べていましたよ。実家はパン屋だったですけど(笑い)。子供の頃、朝食がパンだと怒っていたんです。手抜きをされたような感じがして。親の気持ちが分かりませんでした。
藤尾
ほかの子に比べて体格や体力に差はありませんでしたか。
大畑
小学校高学年から中学生の頃、成長痛で速く走れなくなったのです。しかし、僕にとってラグビーをすることが自分を表現する方法でした。高校時代に目標を掲げて達成したことが成功体験になりました。
藤尾
目標とは。
大畑
入学した時に白い上履きの両外側に黒い油性ペンで書き込みました。右足にチームの目標として「全国制覇」、左足に個人の目標として「高校日本代表」と。中学時代は地区代表にも選ばれた経験がなかったため、最初は皆に笑われ、先生にも注意されました。それでも「卒業時の目標だから、目標に向かい続けるためにも書かせてほしい」と頼み込んだのです。チームの全国大会優勝の夢はかないませんでしたが、高校日本代表は実現しました。
藤尾
相当に努力したのでしょうね。
大畑
試合に出るためには、どうしたらよいかを必死に考えました。足が速い選手になりたかったので、脚力を強くするため徹底して下半身を鍛えたわけです。クラブの練習が終わり、皆が帰ってから、ひとりでトレーニングをしていました。
藤尾
選手時代もしっかり食べていましたか。
大畑
京都産業大学の学生時代の話ですが、友人と3人でよく行くレストランがありました。入口近くの席に陣取り、店員が奥のキッチンから皿に山盛りのご飯をのせて運ぶので、ほかの客が見て笑うんですよ。店からも「ご飯を多めに炊くから、来る前に電話してほしい」と言われたほどです。当時は練習量が多かったので、よく食べました。
藤尾
大畑さんはオーストラリアにラグビー留学をしたり、フランスのプロリーグに入団したりするなど海外でも活躍されましたね。
大畑
海外には炊飯器を持っていき、日本の時と同じようなご飯を食べていました。フランスには嫁さんが同行しましたが、調理は僕も手伝いました。肉は日本食に使うような薄切りが売っていないので、ブロックを買っていました。凍らせて、スライサーで薄く切っていくのです。
藤尾
この対談場所は、当社のおにぎり屋さんです。先日、関西財界セミナー賞の大賞をいただきまして、その受賞理由のひとつはこの店舗でした。おにぎりをお客様に召し上がっていただき、おいしいコメを宣伝するだけでなく、日本の農業を少しでも応援したいという気持ちがありました。ところで、大畑さんはおにぎりはお好きですか。
大畑
塩むすびが好きです。のりを巻くなら、しなっとしているのがいいですね。
藤尾
大畑さんは「ベスト・ファーザー賞in関西」(2011年度)を受賞していらっしゃいますが、ご家庭の食育で気を付けていることがありますか。
大畑
特に気を付けていることはないですね。いま中学3年生と小学5年生の娘がいますが、2人ともよく食べていますよ。娘たちが小さかったころは母乳以外の育児は何でもやりました。

秋のW杯日本大会、今後を占う試金石

藤尾
ワールドカップに向けて、だいぶ盛り上がってきましたね。
大畑
大会は欧州やオセアニアの国で開かれる例が多く、アジアで開かれるのは初めてです。日本代表に頑張ってもらえれば、応援の輪が広がるでしょうね。
藤尾
ラグビーへの関心は高まっていますよ。
大畑
前回の2015年大会で、当時、世界ランキング13位の日本が同3位の南アフリカを破って大金星を挙げてから、流れが変わりました。
大会が成功するかどうかによって、日本のラグビーが世界に向けて発展するか、旧態に戻るかが決まるかもしれません。今後を占う試金石になるのではないでしょうか。予想外の方向に弾むラグビーボールのように、どちらに向かうかは見定めにくいですが、大会が盛り上がれば日本で開かれる今後の国際的なスポーツ大会につながっていきます。後のスポーツ界の発展につなげるのが、このラグビーW杯2019の役割でもあると思っています。
藤尾
当社も食の分野で世界に挑戦しています。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に和食が選ばれ、訪日客の7割が来日の目的に和食を挙げたという調査結果もあるほど追い風が吹いていますから。例えば当社は無菌包装米飯(パックご飯)を2010年から香港、英国、スペインなどに輸出しています。今年4月に富山県に完成した工場で生産能力を増強し、国内向けだけでなく輸出にも力を入れようと考えています。
大畑
マーケットを広げていくのが大事ですよね。フランスにいた頃、地元の人に好きな食べ物を尋ねたら、「日本で食べる和食」と言われました。
藤尾
ワールドカップを見るため世界から多くの方々が来日するので、和食のファンがさらに増えるように期待しています。
大畑
コメの形はラグビーボールに似ているから、和食とラグビーは縁があるかもしれません。
藤尾
今日はお会いできて良かった。大畑さんはテレビで拝見する以上にエネルギーがありますね。
大畑
ご飯を食べているからですよ(笑い)。

2019年5月19日
 日本経済新聞朝刊より

■大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年大阪府出身。東海大仰星高校で高校日本代表、京都産業大学で日本代表に選ばれ、98年に神戸製鋼に入社。2001年にオーストラリアのクラブで、02年にフランスのプロリーグでプレー。03年に神戸製鋼コベルコスティーラーズに復帰し、日本代表キャプテンを務め、2回のW杯に出場した。主なポジションはウィング(WTB)。代表試合トライ数の世界記録を69まで伸ばし、11年に引退。ラグビーの国際統括団体ワールドラグビーにより、日本人で2人目の世界殿堂入りを果たした。現在は大会の魅力を伝えるラグビーW杯2019アンバサダーのひとり。米国のメジャーリーグでも活躍した上原浩治投手と建山義紀元投手は高校時代の同級生。
■藤尾益雄(ふじお・みつお)
1965年兵庫県出身。芦屋大学を卒業後、89年に神明入社。2000年に常務、03年に専務、07年に社長に就任した。趣味はスポーツ。柔道二段。

関西財界セミナー賞の大賞受賞

神明は2019年の関西財界セミナー賞の大賞を受賞した。関西財界セミナー賞は関西経済連合会、関西経済同友会などが選んでおり、今回が15回目。選んだ理由として ①1972年にブレンド米「あかふじ米」を消費者向けに販売し、スーパーへの販路を築いた ②10分で炊ける炊飯器、計量の要らない一合パックなど革新的な商品を生み出した ③おにぎりショップ「五穀豊穣米処穂(みのり)」、米ぬか油専門店なども運営し、日本の農業の活性化に貢献している――ことなどを挙げている(今回の対談場所は穂の店内)。

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